鈴木健吾(高43回) 平成3年に西高を卒業し、進学先の群馬大学で待っていたのは、僕の人生を大きく変える出会いだった。それは『落語』との出会いである。
 なぜ出会ってしまったのか?そもそも高校時代まで落語とは一切縁のない生活を送ってきた。無口ではなかったと思うが、おしゃべりでもなかった。落語というものに興味があったわけでもない。出会いの原因は同じアパートの先輩。初めて一人暮らしで不安いっぱいの中、色々助けてくれた先輩が落研(落語研究会)に入っていて勧誘されたのである。この人の良い先輩のおかげでアパートの新入生人中、半数の8人が入会してしまった事を付け加えておく。
 そんなわけで自分から進んで入ったわけでもなかったのだが、いざやってみると、これが面白い。使えるのは言葉と仕草、扇子と手拭いの小道具だけ。これで笑わせたり泣かせたり感心させたりしなければならない。この人の心を掴み動かす事の楽しさや難しさにはまってしまったのだ。

年に2回ある公演会と大学祭での公演の他は、老人会や婦人会などに呼ばれての出前寄席、病院への慰問寄席などが主な活動だった。
特に見ず知らずの人が集まる老人会、婦人会、病院などは大変だった。お客さんの男女比や年齢層などから話すネタやお客さんを引き込む手立てを考えなければならないからである。そのかわりお客さんが大声で笑ってくれたり大きな拍手をくれた時にはこの上ない達成感があったものだった。
 現在は居酒屋という寄席に立ち、扇子を包丁に持ち替え、港に通い仕入れたネタ(魚)を調理し、言葉巧みに老若男女様々なお客さんに売り込む事を生業としている。毎日毎日が出会いの連続だ。見ず知らずのお客さんに話しかけ、料理や酒を売り込み、帰り際に「おいしかったよ」「楽しかったよ」この一言を言ってもらった時、そんなお客さんたちが沢山来てくれてお店がにぎわった時の達成感にはたまらないものがある。
 今、この舞台からは離れられそうにない。
〈略歴〉 群馬大学工学部を中退後浜松に戻り、ホテルコンコルド浜松、ベーカリーレストランサンマルクを経て、平成13年に(有)志磨に入社『談味酒家ふとっぱら』にて勤務をはじめる。
平成20年6月より(有)志磨より経営を引き継ぐ。現在「談味酒家ふとっぱら」代表

2010.07.20