毎年、3月の卒業式シーズンになると、それは新たな生涯学習者の誕生なのだと、いつも思う。とりわけ私のような美術系の道を選んだ者は、 定年も無く、生涯学習者として、折々のエピソードを観察しながら作品を創って生計を立てるしかない。
私は西高から武蔵野美術大学に進学した初めての学生である。3年のとき、グラフィック・デザイナーの登竜門と言われた日宣美展にポスターを 応募し、在学生で入選した第一号にもなった。それをきっかけに仕事が舞い込んで、美大を中退。以来デザイナー、漫画家、イラストレーター、 美術系専門学校の講師などの肩書きで約半世紀。イタリアの国際漫画賞を受賞し、スイスの漫画美術館にも作品が収蔵された。名誉に思うが、それ以上 に漫画の仕事が素晴らしいのは、人生の喜怒哀楽のすべてが原稿料になること。
救急車で病院に搬送されても、好奇心が先立ってしまう。最新の医療機器、医師や看護師との人間関係を観察し、メモをとりスケッチすれば、仕事に 役立つ。それを元にギャグを作りドラマを仕立てて生活費を稼ぐのがこの道のプロである。肉体の苦痛も原稿料で取り返す。そんな訳で恐怖や不安さえ 笑い収入源。死んでも漫画家はやめられない。
いつの間にか、趣味の翻訳書好きが高じて新聞の書評欄に寄稿や、言語学に関する新聞連載コラムも6年目に入り、好きな音楽雑誌のイラストは 10年を経過。NPO法人日本鉄道模型の会の理事であり、池袋の路面電車とまちずくりの会の委員でもある。今や肩書きはトリビア系生涯学習者の 自営業に進化し、「へェー」と言わせたくなる毎日が楽しい。
水野 良太郎 氏 略歴
漫画家、イラストレーター。社団法人日本ペンクラブ会員。著書に「漫画文化の内幕」(河出書房)など多数。