本郷道太(高43回) 私がギターに興味を持ったのは、西高に入学してすぐのことでした。その頃は、戦前の北米の黒人音楽と、それらに影響を受けた60年代のロックばかり聴き、読む本と言えばロシア文学ばかりでした。
ステレオを買うお金を節約するためスピーカーくらいは自分で作ろうと、鉋や鋸を買ってきて独学で木工と音響を勉強し始めたのも一年の時でした。
卒業後何名かのギター製作家に弟子入りをお願いするも、全て断られたため大学に行きましたが、木工は続けていました。大学卒業後は手工ピアノの町工場で5年程勤めた後、初志に戻るべくギター製作家に弟子入りをし、1年程の修行の後に独立しました。
 ギター製作家になるまでに10年も遠回りをした格好ですが、その年間に得たものは、現在の私の支えであります。
 この仕事は忍耐力と集中力が要求され、地味な仕事です。また材料は最低でも数年は寝かさねばならず、先行投資となり経済的にも楽な仕事ではありません。所謂、家内制手工業という形ですが、この形態の利点は、コストという概念にそれほど縛られない点だと思います。

ギターも工場で大量に作られるようになって50年以上経ちますが、効率のためそれが良いギターの為には当然必要と分かっていながら消えて行った工程、工法が多くあります。それらを採用できるのはこの形態の強みだと思います。
 日々精進するしかない仕事です。私の死後もギターは残りますので、後に修理でバラされた時に、その職人から、こいついい仕事してるな、と思われればそれで充分です。
〈略歴〉 1996年旧大阪外国語大学卒業後、(株)シュバイツア技研に入社、2002年茶位幸秀氏に師事、2003年独立。

2010.07.20