中丸 隆さん(高42回)「なぜ裁判官になろうと思ったんですか?」
 昨年夏に最高裁が実施した<夏休み親子見学会>。<裁判官への質問タイム>に登場した私が、子供たちから一番多く受けたのがこの質問でした。
 西高在学中、将来は法律家になりたいと漠然と思い始めた私でしたが、裁判官については、ニュースの法廷映像の影響で、「難しい顔をして座っている無機質で冷たい人たち」といった否定的なイメージしかありませんでした。しかし、司法試験に合格し、実際に裁判官から指導を受けるようになって、意外と気さくで温厚な常識人が多いことを知り、裁判官に対する印象は大きく変わりました。職員が裁判官を「さん」付けで呼んでいるのも新鮮な驚きで、想像していたよりも風通しが良く働きやすい職場だなあと思いました。

(余談ですが、法廷映像の撮影は、開廷前の約2分間に行われます。裁判官は、その間、じっとカメラに向かって座っていなければなりません。テレビカメラが入る事件は傍聴人の数も多く、法廷は緊張感がみなぎっており、裁判官がむやみに表情を崩すわけにもいかないので、どうしてもカメラをにらみつけるような厳しい顔になってしまうのです。裁判官は一般に「官僚的で冷たい」といった印象を持たれがちですが、裁判員制度もスタートし、実際の裁判官に接する市民が増えていけば、少しずつイメージも変わっていくのではないかと期待しています。)
 多くの当事者にとって、裁判を受けるのは一生に一度あるかないかの重大事です。私が指導を受けた裁判官たちは、当事者双方の主張や証拠を丁寧に吟味しながら、「この事件の真相は一体何なのか」「どのような解決が最も妥当なのか」を真剣に考え抜いていました。私は、そのような裁判官の姿に感銘を受け、裁判官を志望するようになりました。

「真実は神のみぞ知るという言葉がある。しかし、神様だけでなく、実は事件の当事者も真実を知っている。裁判官がその真実を見抜けなければ、負けた方は裁判に失望するだろうし、勝った方は裁判なんてチョロいもんだと思うようになるだろう。裁判官は事件を裁いているのではない。当事者から裁かれているんだ。裁判官になろうと思うなら、そのことを忘れないでほしい。」
 当時の指導裁判官の言葉が、今も耳に残っています。

「なぜ裁判官になろうと思ったんですか?」
 決して裁判官として一人前とはいえない私ですが、これからも子供たちの問い掛けを思い起こし、初心を忘れず謙虚な気持ちで頑張っていきたいと考えています。

中丸 隆さんのプロフィール
平成6年10月、司法試験合格。平成7年4月から2年間の司法修習を経て、平成9年4月に裁判官に任官(東京地裁)。その後、千葉家裁、東京地裁、仙台地裁を経て、平成20年4月から最高裁広報課に勤務。平成13年から平成16年まで約3年間、外務省に出向し、同省総合外交政策局国際平和協力室検事兼外務事務官、在ニューヨーク日本国総領事館領事を務めた。

2009.06.13